2017/08/11
Johnny Cashの訳詞・和訳シリーズ第2弾、
I Drove Her Out of My Mindです。
“ねえ、このキャデラックで飛ぶつもり?” I Drove Her Out of My Mind
アイ・ドローヴ・ハー・アウト・オブ・マイ・マインド彼女は俺に三行半をつきつけて 新しい男と逃げやがった
俺の稼ぎじゃ とうてい買えないものをプレゼントしてもらったんだとさ
それから俺は 気分を上げる薬や落ち着かせる薬
あらゆるものに頼ってみたが
いまだに彼女とのイイ思い出が頭から離れない
そこで俺は今日 彼女がずっと欲しがってたキャデラックを買った
彼女に電話して 乗ってみたくねえかって聞いたんだ
これが最後のデートよって言うから わかってるぜと答えた
今夜 俺の頭の中から彼女を追い出すために
(Chorus)
ドライブに連れ出したら ルックアウトマウンテンまでひとっ走り
俺の女だった頃は どこにも連れてかないと文句を言ってたからな
彼女は7つの州を一望できるはず
俺たちが天国の門までドライブする間に
今夜 やっと俺の頭の中から彼女を追い出せるんだ
新聞はこぞって書き立てるだろう
「また恋人たちがルックアウトマウンテンから身投げした」と
これは心中だっていう走り書きを残してきたからな
だが 俺の墓にはこう刻まれるはずだ
「彼は昨日みずからの苦痛にとどめを刺し
ついにあの女を頭の中から追い出した」と
さあ 彼女が愛想を振りまきながらやってきたぜ
男殺しのドレスだな まあ俺も女殺しなわけだが
願わくば彼女に聞いてほしいもんだ
「ねえ、このキャデラックで飛ぶつもり?」と
そしたら 俺は笑いながら死ねるだろう
「そのとおり」って答えながら
まさにその瞬間 俺の頭の中から彼女を追い出せるんだ
(Chorus)
ドライブに連れ出したら ルックアウトマウンテンまでひとっ走り
俺の女だった頃は どこにも連れてかないと文句を言ってたからな
彼女は7つの州を一望できるはず
俺たちが天国の門までドライブする間に
今夜 やっと俺の頭の中から彼女を追い出せるんだ
噂になるだろう ジョニー・キャッシュは木っ端みじんになったと
チャタヌーガのこの場所で
昨夜 ついに奴は頭の中から彼女を追い出したと
あのキャデラックのディーラーもびっくり仰天だろうぜ
頭金99ドルで 月額99ドルのローン
ハハハ まったく傑作な話だ
天国の門に向かって
天国の門に向かって
天国の門に向かって…
ジョニー・キャッシュの曲の中では、かなりマイナーと思われるこの作品。彼の没後11年目、2014年に発売された未発表音源集の
Out Among the Starsに収められています。1980年代前半のレコーディングセッションをもとに、2013年にレコーディングされました。作詞・作曲は、Gary Lee GentryとHillman Hallです。
私がジョニー・キャッシュの歌詞に興味を持ったきっかけが、このナンバーでした。
ネットラジオから流れてきた明るく爽快感あふれるメロディに、「この曲、いいじゃん」とノリノリで拍子を取っていた
Carrot。英語がよくわからないので、Cadillac(キャデラック)とか聞こえるから、楽しいドライブの曲なんだろうと勝手に思っていました。
ところが曲が進むにつれて耳に入ってくる、suicide(自殺)、kill(殺す)、pain(苦痛)等々、むちゃくちゃ殺伐とした単語の数々。極めつけがエンディングの脳天気な女性コーラスです。pearly gatesって、天国の門じゃなかった!?
いったい何を歌ってるのかと歌詞を検索して、その内容にあっけにとられると同時に爆笑しました。皆さんも当時の私のようにびっくり仰天しましたか? そして、一途すぎた男の夢見るハッピーエンドに一抹の切なさを感じていただけたでしょうか。
訳していて一番おかしかったのが、“Dressed to kill and so am I” のくだりです。「Dressed To Kill」(殺しのドレス)というブライアン・デ・パルマ監督の映画がありますが、これは異性の気を引くための露出度の高い悩殺ファッションのことですね。それに対して、“so am I”(俺もだよ)と答えるジョニー・キャッシュのバリトンボイス。やめて!あんたのkillは比喩じゃなくてマジだから!と突っ込まざるを得ません。
ちなみに、この無理心中男がドライブの目的地にしているルックアウトマウンテンの崖は、こんなところです。
ルックアウトマウンテンは、テネシー州のチャタヌーガにあり、7つの州(テネシー、ケンタッキー、バージニア、サウスカロライナ、ノースカリフォルニア、ジョージア、アラバマ)を見渡せる絶景の観光ポイント。この一帯はネイティブアメリカンの居住地で、
チャタヌーガという地名は、チェロキー族の言葉で「岩が迫り来る場所」という意味だそうです。
上の画像の断崖絶壁は、チェロキー族の心中伝説が残る、ラバーズ・リープという崖です。主人公の言動から見るに、現代においても身投げの名所になっているみたいですね。
こっぴどくふった相手がピカピカの新車でドライブに誘ってきたら、「じゃあ最後に一回だけ」とか言ってないで、全力で逃げましょう。でなけりゃ、ここから天国の門めがけて飛ぶことになります。
それにしても、頭金99ドルしか支払ってもらっていないキャデラックのディーラーさん。新聞を見て真っ青になってる顔が目に浮かびます。気の毒すぎる。
