思い出のグリーングラス聞き比べ!Tom Jones, Elvis Presley, Johnny Cash

グリーンの芝生と樫の木
Green, Green Grass of Home(思い出のグリーングラス)を、トム・ジョーンズエルヴィス・プレスリージョニー・キャッシュの3人のバーションで聞き比べるお楽しみ企画です! 曲紹介と訳詞は、前回更新のGreen, Green Grass of Homeからご覧ください。


“圧倒的なリアリティーのトム
出だしでネタばれのエルヴィス
殺しても死なない貫禄のジョニー”





「思い出のグリーングラス」は多くのミュージシャンにカバーされていますが、中でもこのトム・ジョーンズのバージョンが認知度・人気ともにダントツでしょう。トム・ジョーンズはイギリス南ウェールズ出身の実力派ボーカリストです。ソウルフルでパンチの効いた歌声と、男の色気むんむんのルックスから、私はてっきりラテン系の御仁だと思い込んでいました。

トム・ジョーンズがGreen, Green Grass of Homeをレコーディングしたのは1966年。彼が26歳のときです。

つややかな歌声に若さと情熱があふれていて、ゆったりした曲調の中にも、未熟な青年の感情の激しさを感じさせます。「若気の至りでやらかしてしまった」感がヒシヒシと伝わってくるんですね。きっと衝動的な犯罪だったんだろうな、もしかしたら自分がしでかしたことの意味もわかってないのかもしれない、そんな気持ちにさせられます。

そもそも極刑を科せられるような罪を犯して、実家の庭のお気に入りの場所に埋葬されたいとか、親不孝の極みじゃないですか。それで、ママとパパと恋人に優しく迎えてほしいだの、とんでもない自己中ですよ。恥や反省の意識はどこ行ったんだって話です。

でも、このトム・ジョーンズのパーンと張りのある歌声を聴いていると、自然に納得できるんですよね。その視野の狭さ、いきすぎた純粋さや甘えみたいなものが、若さゆえの愚かさなんだなと。そして、この青々とした芝生のような若い命がもうすぐ失われてしまうことに、やり切れなさと哀れみの気持ちがわいてきます。まさに歌の主人公と歌い手が一体となったかのようなリアリティー。

トム・ジョーンズはtとkの子音の発音が強くて、good to touchのあたりなんか、ほとんど舌打ちのように聞こえます。それがエネルギッシュでパワフルな印象を強めているように感じます。ザ・ヴォイスという異名を取るだけあって、希有な歌声、素晴らしい歌唱力です。

私個人の評価も、「思い出のグリーングラス」はこのトム・ジョーンズ版がNO.1。文句なしです。


次にご紹介するのはエルヴィス・プレスリーのバージョンです。

1975年、エルヴィス・プレスリー40歳のときのレコーディングです。このエルヴィス版のGreen, Green Grass of Homeは、彼の最後のスタジオ録音アルバム「Today」に収録されています。

静かなギターのイントロからの歌い出し。懐かしいふるさとの風景を描きながら、後悔と惜別の情にあふれた歌声が泣いています。一聴して、これはただごとではない、単なる思い出話ではないということが伝わってきます。

末期の目に、ひときわ美しく輝いて見える故郷の景色と愛する人たち。それをそっと胸に抱いて、やさしく慈しむようなぬくもりのある歌声。ほんとにもう、エルヴィスの表現力って異次元ですね。彼の頬をつたい落ちる滂沱の涙が目に見えるようです。

エルヴィス・プレスリーの歌声には、温泉に浸かっているような癒やし効果があります。Carrotは昔、どーんと落ち込んで、エルヴィスばっかり聞いてた時期がありました。やわらかい毛布にくるまって、お母さんの子守歌を聴いているような気持ちになるんですよね。

それはさておき、問題なのは、出だしでネタバレしちゃってることです。歌い出した途端に、これはただの思い出話じゃないと悟らせてしまうのは、曲の仕掛け的には失敗なのでは?

しかも、こんな優しく温かく慈愛に満ちた雰囲気の人が死刑囚ですよ。虫一匹殺せないような感じですけど、そんな人が一体どんな罪を犯したっていうんでしょうか。正当防衛だったのよね? いや、ほんとは冤罪なんでしょ? 誰をかばってんの? 正直に言って! まだ間に合うかもしれないんだから! と、襟首つかんで揺さぶりたくなってしまいます。

死にゆく人の郷愁を表現したものとしては、エルヴィス・プレスリーのバージョンは抜きんでています。彼はこの頃すでに、過食症や睡眠薬の乱用によるさまざまな体調不良で、迫りくる死の影を見つめていたのでしょう。一方、死刑囚としてのリアリティーでいうと、やはりトム・ジョーンズ版が勝ります。言ってしまえば、エルヴィス版は悪人らしさに欠けるんですね。そこが好きだとおっしゃる方も多いでしょうが、曲にフィットしているか否かという意味で、エルヴィスのバージョンは次点とさせていただきます。


それでは、最後にジョニー・キャッシュ御大のGreen, Green Grass of Homeです。

刑務所での慰問コンサートをライフワークのように大切にしていたジョニー・キャッシュ。このバージョンはカリフォルニア州のフォルサム刑務所における慰問ライブを収録した「Johnny Cash at Folsom Prison」におさめられています。レコーディングは1968年、当時ジョニー・キャッシュは36歳でした。

なんでしょうか、この悟りをひらいたかのような恬淡とした歌声。その中ににじみ出る、受刑者たちへの深い共感と愛情、そして虚無感。何も聞かなくても、きっと大層なことをなさったんでしょうね、と頷いてしまいそうです。極刑ですか、そりゃウン十人も殺めてしまわれては、それもやむなしかと、みたいな。

フフフ、俺も馬鹿なまねをしたもんだ、つまんねえ人生だったな、とか肩をすくめながら、何だか妙に余裕のあるジョニーさん。翌朝、刑執行のために迎えにきた看守と神父さんが見たものは、すっからかんの独房だった! そこには手下たちが突貫工事で掘り進めた脱獄用のトンネルがぽっかりと口を開けて……

なんて妄想をふくらませてしまうのは、ジョニー兄貴の歌声に、静かで凄みのあるモノホンの悪の香りが漂うから。数々の刑務所ギャングを生み出したフォルサムプリズンの札付き受刑者たちも、固唾をのんで聴き入り、大喝采を送っています。刑務所食堂での慰問ライブで、演奏的にも録音環境的にも制約があるのが、逆に生々しい臨場感となって伝わってきます。

リアルな悪人っぽさという意味では、このジョニー・キャッシュ版は抜群です。でもこの人、ほんとに生きて故郷に帰りそうな、淡々としたふてぶてしさがあるんですよね。いや、個人の偏った感想なんですけども。その点で、どうしても哀れさや悲しさが減じられてしまいます。よって第3位。愛ゆえの辛口評価ということで、ごめんね、ジョニー。

「思い出のグリーングラス」Green, Green Grass of Homeは、このビッグスリーの他にも、ジョーン・バエズケニー・ロジャース森山良子尾崎紀世彦など、多くのシンガーがカバーしています。それぞれ聞き比べてみると、色んな発見があって楽しいかもしれません。


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プロフィール

Carrot

Author:Carrot
ジョニー・キャッシュを愛する洋楽ファン。自己流の訳詩、好きな音楽の話、日常の出来事を気ままに綴ります。
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