2017/10/31
Crystal Chandeliers and Burgundy / Johnny Cash 訳詞・和訳

ジョニー・キャッシュの1974年のナンバー、Crystal Chandeliers and Burgundyを和訳つきでご紹介します。
“もしこの世に 俺のやるべきことが何ひとつないなら
鉄のレールに乗り続けるだけの人生ならば”
Crystal Chandeliers and Burgundy
クリスタル・シャンデリアズ・アンド・バーガンディー
この貨物列車が俺のねぐら サン・アントニオからずっと
飛び乗ったときに足首をくじいちまって
その痛みが俺にきらびやかな夢を見せる
目に浮かぶのは クリスタルのシャンデリアと赤ワイン
車輪の音が おふくろの胸の鼓動のようだ
それは二度と戻らない息子が刻むリズム
気ままに流れていく先は神のみぞ知る
目に浮かぶのは クリスタルのシャンデリアと赤ワイン
あの車掌がわかってくれさえすれば
俺がこれまで味わった苦労のすべてを
この列車に再び乗るためだけに
自由なホーボー生活はそんなに悪いもんじゃない
ありあまる富を夢に描くことだってできる
でも 貨物列車の暮らしはこたえるだろうな
目に浮かぶのは クリスタルのシャンデリアと赤ワイン
あの車掌がわかってくれさえすれば
俺がこれまで味わった苦労のすべてを
この列車に再び乗るためだけに
もしこの世に 俺のやるべきことが何ひとつないなら
鉄のレールに乗り続けるだけの人生ならば
そのときは この目に浮かぶ幻を消し去ってくれ
クリスタルのシャンデリアと赤ワイン
クリスタルのシャンデリアと赤ワイン
Crystal Chandeliers and Burgundyは、ジョニー・キャッシュが1974年に発表したアルバム「The Junkie and the Juicehead Minus Me」に収録されています。
きらびやかな都会への憧れに取りつかれ、故郷を捨てて、ホーボー(無賃乗車で移動する流れ者の労働者)生活を選んだ主人公。でも、希望に満ちあふれて晴れやかというわけではなさそうです。
くじいた足の痛み、車輪の響きに重ねる母への思い、いつまで続くかわからない流浪の暮らしへの不安。ジョニー・キャッシュの歌声にも、どこか懐かしさ漂うメロディにも、静かな諦めと疲れがにじんでいるように感じられます。
クリスタルのシャンデリアと赤ワインのイメージも、セピア色にかすんだ昔の夢のようですね。むしろ、そんな極端なものしか思い浮かべられない主人公の、贅沢や文化的なものとはかけ離れた田舎での生活がしのばれます。
おそらくこの道を進んでいっても、クリスタルのシャンデリアと赤ワインの夢に辿り着くことはないだろうと、彼は自分でも思っているんじゃないでしょうか。それでも、明日をも知れぬ流れ者の暮らしに身を投じるほど、彼にとって故郷は生きづらい場所であったのだろうと思います。

私はこの曲を、夢に向かっての旅立ちというよりは、しがらみの多い故郷から逃げ出す歌として聴いています。やむにやまれぬ思いで、ふるさとや家族のもとを離れた経験のある人には、身につまされるところがあるかもしれません。ちなみに、生まれ育った場所からの逃亡をもっとはっきりと歌っているのが、以前ご紹介したI Never Picked Cottonでした。
この郷愁を誘うホーボーソングの作詞・作曲は、シンガーソングライターのジャック・ウェスレイ・ラウス。彼はこのアルバムが発売された1974年に、カントリーミュージシャンのカーリーン・カーターと結婚しています。
カーリーンはジョニー・キャッシュの愛妻ジューン・カーターと前夫との間の娘です。つまりラウスは、ジョニー・キャッシュの義理の娘の夫、義理の息子にあたるわけですね。カーリーンとラウスは3年ほどで離婚しているので、元義理の息子というべきでしょうか。
Sunday Mornin' Comin' Downの記事でも触れましたが、ジョニー・キャッシュの実父は若い頃、この歌に出てくるようなホーボー生活を送っていた時期があったそうです。兄の死をめぐって相克のあった父親ですが、ジョニーの歌声は、若き日の父の姿に思いを馳せるような優しさと共感に満ちています。

