A Boy Named Sue / Johnny Cash 訳詞・和訳

酒場に佇むガンマン
ジョニー・キャッシュ最大のヒット曲、A Boy Named Sue(スーという名前の少年)を和訳とともにご紹介します。


“俺の名前はスーだ、ごきげんよう! さあ、死にやがれ!”


A Boy Named Sue
ア・ボーイ・ネームド・スー


俺が3つのとき 親父は家を出ていって
おふくろと俺にはほとんど何も残さなかった
この古いギターと空っぽの酒瓶だけ
まあ 親父が雲隠れしたことを責める気はない
だが やつがやらかしたことの中で最低だったのは
出て行く前に 俺にスーなんて名前をつけやがったことだ

親父にとっては完全なジョークだったに違いねえ
この名前は大勢のやつらに大笑いされた
俺の人生は喧嘩につぐ喧嘩のようだった
女どもはクスクス笑い 俺は真っ赤になった
男どもはゲラゲラ笑い 俺はやつらの頭をぶっ飛ばした
いいか 人生は甘いもんじゃない スーなんて名前の少年にとってはな

俺は早く大人になり ずる賢くなった
こぶしは硬くなり 五感は研ぎ澄まされた
恥ずかしい名前がバレねえように 町から町へ放浪した
だが 俺はお月さんとお星さんに誓いを立てていた
安酒場やバーを捜し回って
この最低な名前をつけた男の息の根を止めてやると

ガトリンバーグで 7月の中ごろ
俺は町に着いたばかりで喉がカラカラ
ちょっと休んで一杯やっていこうと考えた
泥でぬかるんだ通りにある古い酒場で
カードゲームをやってるテーブルに あの男がいた
俺にスーって名前をつけやがった 汚ねえ貧相な犬野郎が

ああ 俺にはあの陰険野郎が愛しの父ちゃんだってわかったぜ
おふくろが持ってたボロボロの写真でな
あの頬の傷と目つきの悪さは間違いねえ
デカくて腰が曲がった白髪の老いぼれ
あいつを見た瞬間 俺はぞっとした
そして言った
「俺の名前はスーだ、ごきげんよう! さあ、死にやがれ!」

ああ、俺はそう言ってやったぜ

俺は親父の両目のど真ん中をぶん殴った
やつはぶっ倒れたが 驚いたことに
ナイフを手に素速く起き上がり 俺の片耳を切り落とした
それで俺は椅子を やつの歯に真っ向から叩きつけた
俺たちは壁を突きやぶって通りに転がり出て
蹴飛ばしあい 目つぶしをくらわせあい 泥と血とビールにまみれた

言っとくが もっとタフなやつらと戦ったこともあるぜ
でも正直いうと それがいつだったかは思い出せねえ
親父がラバみてえな蹴りを入れて ワニみたく噛みついてきた時
俺は笑い声と罵りの言葉を聞いた
親父は銃に手をかけようとしたが 俺が抜く方が早かった
やつは俺を見つめながらその場に立ちつくし 笑みを浮かべた

親父は言った
「息子よ この世ってのは厳しいもんだ
一人前の男として生きぬくなら タフでなきゃな
俺がずっとおまえの成長を助けてやれるわけでもねえ
だから俺はおまえにその名前をつけて おさらばしたんだ
おまえはタフになるしかなかった でなきゃ死んでただろう
おまえをそこまで強くしたのは その名前なんだぜ」

「おまえはたった今 どえらい喧嘩をやらかしたところだ
俺を憎んでるのはよくわかるぜ
おまえにはさっさと俺をぶち殺す権利がある
そうされたって文句は言えねえ
だがな その前におまえは俺に感謝しといた方がいいぜ
おまえの腹の中の苛立ちや 受けてきた侮辱のために死んでやる
なぜなら おれはおまえにスーと名づけたクソ野郎だからな」

ああ 俺に何ができたっていうんだ? いったい何ができたんだ?
俺は胸がいっぱいになって言葉を失い 銃を投げ捨てた
そして親父を父ちゃんと呼び 親父は俺を息子と呼んだ
俺とは違った物の見方を理解して 俺は親父と別れた
それから俺は時々 親父について思うことがあるんだ
何度考え直してみても やっぱり俺の言い分に軍配が上がる
もし俺に息子がいて そいつに名前をつけるとしたら……

ビルでもジョージでも何でもいいぜ!
スーでさえなけりゃな!
俺は今でもこの名前が大っ嫌いなんだ!



“My name is Sue! How do you do! Now you're gonna die!”という、ジョニー・キャッシュのシャウトが痛快きわまりないです。

Wikipediaによると、1969年7月にリリースされたA Boy Named Sueは、シェル・シルヴァスタインによって作詞・作曲されました。このナンバーは瞬く間にヒットチャートを駆け上がり、全米シングルチャートのカントリー部門の1位はもちろん、総合チャートでも2位を3週間にわたってキープしています。これはジョニー・キャッシュのキャリアの中で最大のヒットになりました。ちなみにこの時1位にいたのは、ローリング・ストーンズのHonky Tonk Womenです。


スーという名前の少年。
日本人の名前でいうと、すみちゃんとか、すずちゃんとか、男の子につけてしまった感じでしょうか。性別不詳なキラキラネームの跋扈する現代であっても、かなりキツそうです。

しかしスーさん、自分はずる賢く育ったとか豪語してますが、陰険オヤジの甘言に一瞬で丸め込まれてますやん。そいつ、その直前には銃に手をかけてて、あんたのこと殺る気マンマンでしたよ。強くなってほしいからとかいうエエ話も、絶対その場の思いつきだってば。絶体絶命の状況に追い詰められてから、ヘラヘラ笑って、「おまえはワシが育てた」なんて臆面もなく言い出すオヤジの面の皮の厚さ、息子の10倍ぐらいありそうですね。こりゃ一枚も二枚も上手だわ。

そんなオヤジの老獪さに感心しつつ、嘘くさいお涙ちょうだい話にあっという間にほだされる息子の内心の寂しさ、父ちゃん恋しさにホロリとします。その場では和解して別れても、どうしても納得がいかず、「俺は息子にスーなんて絶対つけない!」と地団駄踏むスーさん。でもまた会ったら、やっぱり同じように丸め込まれるんだろうなー。可愛いなー。

西部劇なんかのパターンでは、追い詰められた悪役が急に言い訳し始めたら、反撃のチャンスをうかがってるサインですが、そこは何だかんだいっても親子。ユーモアたっぷりのハッピーエンドになっていることも人気の理由なんでしょうね。


曲の形態としては、いわゆるトーキング・ブルース。ジョニー・キャッシュの十八番の、語りを主体とするギター漫談です。

作詞・作曲者のシェル・シルヴァスタインは、日本では絵本作家としてよく知られています。「おおきな木」「ぼくを探しに」などが有名ですが、Wikipediaによると、シンガーソングライターとしての顔も持つマルチクリエイターだったんですね。シルヴァスタインは、自分のシェルという名前の女性的な響きを友達にからかわれていたことから、この曲の着想を得たそうです。

さらに、なんとシルヴァスタインは、Father of A Boy Named Sue(スーという名前の少年の父親)という曲もつくっています。これがまた、A Boy Named Sueと同じ父子の話だとしたら、何が本当で何が嘘だかわからなくなるブッ飛んだ内容なんですよ。こちらもまた別の機会にご紹介したいと思います。

※2017/8/18追記
「Father of A Boy Named Sue / Shel Shilverstein」の訳詞と感想を掲載しました。
あまりに突拍子もない展開なので、ご興味のある方は心してご覧ください。


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Carrot

Author:Carrot
ジョニー・キャッシュを愛する洋楽ファン。自己流の訳詩、好きな音楽の話、日常の出来事を気ままに綴ります。
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