2017/08/18
Father of A Boy Named Sue / Shel Silverstein 訳詞・和訳

Father of A Boy Named Sue(スーという名前の少年の父親)。
ジョニー・キャッシュの大ヒット曲A Boy Named Sue(スーという名前の少年)の作者シェル・シルヴァスタインが、後に父親の視点から、こんな奇妙奇天烈な続編を作っていたことをご存じだったでしょうか。
“ちょっとパパ、アタシの髪がめちゃくちゃじゃないの!”
Father of A Boy Named Sue
ファザー・オブ・ア・ボーイ・ネームド・スー
“さて、僕は何年も前に「スーという名前の少年」というタイトルの曲を書いた。
それはそれで良かったんだ、ある点を除いてはね。それで、僕はそのことについて考え始めたんだ。僕が考えたのは、あれはフェアじゃなかったってこと。
僕はすべての出来事を、あの気の毒な少年の立場からしか見てなかったんだ。年を取るにつれて、そしてより父親らしくなるにつれて、僕は年老いた父親の立場から物事を見るようになっていった。それで僕は、あの父親にも公平にチャンスを与えることにしたんだ。
オーケー、それじゃ始めるよ”
そうさ、俺は息子が3つの時に家を出た
自由気ままな独身気分はマジで最高
たしかに いい父親としての振る舞いじゃあなかったよな
だがあのガキときたら 叫び続けに吐き続け
パンツに小便漏らし続けで うんざりしたぜ
それで腹いせに 息子にスーと名づけて家出したのさ
イエーイ!
ガトリンバーグで 7月の中ごろ
俺は飲んだくれて ようやく生きてる有り様だった
老いぼれて 状況は悪化の一途をたどってた
そのときドアからすさまじい金切り声とともに
見たこともねえほど不細工なオカマ野郎が入ってきた
やつは言った
「アタシの名前はスーよ! ごきげんよう!」
そして やつは俺をハンドバッグで引っぱたきやがった
さあ これはあいつのホラ話とは違う成り行きだ
やつは俺の顔を爪でひっかいて
俺の親指に噛みついて
おまけにハイヒールのかかとで蹴りつけてきた
そこで俺がやつの鼻っ柱を殴ったら めそめそ泣き始めた
そして俺の目めがけて香水を噴射しやがった
たしかに スーって名前の年をくった少年と戦うのは簡単じゃなかったぜ
俺は籐椅子でやつの頭を殴りつけた
やつはわめいた 「ちょっとパパ、アタシの髪がめちゃくちゃじゃないの!」
そして俺のへそを殴り返して へそのゴマを吹っ飛ばした
やつは口の中の血を吐き捨て 俺は歯を吐き捨てた
俺たちは壁を突きやぶって通りに転がり出て
蹴飛ばしあい 目つぶしをくらわせあい 泥と血とミントリキュールにまみれた
やつがガーターベルトから銃を引き抜いたとき
俺はまさに実の息子に撃ち殺されるところだった
あいつはフロイトの心理学について叫びながら残忍な笑みを浮かべてた
だから俺はとっさの思いつきを話して聞かせたのさ
息子にタフに育ってほしいという一心で おまえにスーと名づけたんだとね
あいつは信じたみたいだぜ 今じゃ一緒に住んでるんだからな
息子は料理も縫い物も部屋の掃除もしてくれる
俺の髪を切って 顔まで剃ってくれるぜ
シャツのアイロンかけは娘より上手いんじゃねえか
夜の方はどっちが上手いか知らねえが
おっと これ以上はお話しできねえな
ただ スーって名前の息子に満足してることはたしかだぜ
息子ってのは楽しいもんだが
俺はスーって名前の息子を持って大満足だ!
人でなし…… あんたは鬼や……
あのヒット曲の続編がほとんど知られてない理由がよーくわかりました。
A Boy Named SueとFather of A Boy Named Sueの両曲を作詞・作曲した、シェル・シルヴァスタイン。
Wikipediaによると、このスキンヘッドにひげ面のおっさんは、「野球選手になって女の子にもてたいと思っていたが、野球もダンスも苦手でそれゆえに絵、音楽、本の世界に入った」そうです。この曲を聴いた後では、まあそうだろうなとしか思えません。
実際にA Boy Named Sueは大ヒットしたし、彼の「おおきな木」や「ぼくを探しに」といった絵本は日本でも広く知られていますよね。シルヴァスタインは、絵・音楽・本の世界には確かに才能がありました。でもこのスーの父親バージョンは、才能があふれこぼれて、とんでもない方向に爆発してしまってます。返せ!息子のスー編で味わったドキドキハラハラな痛快さと、しんみりほっこりした感動を返せ!
これは息子に歯を折られて叩きのめされたことを根に持ってるオヤジのホラ話だと信じたい。でないと息子が不憫すぎる。いや、裏でこんな話を吹聴されてるとしたら、ホラ話であっても不憫です。この根性ねじ曲がって腐りきったオヤジに比べて、息子のスーさんのなんと素直で純朴で可愛らしいことか。「なっ、可愛いだろ?」ってオヤジの声が聞こえてきそうで、ほんとイヤです。
しかしこのオヤジ編、やっぱり上手いなと思います。ここでのスーさんは、トランスジェンダーなのか女装癖があるだけなのかわかりませんが、めっちゃ強いのにめっちゃ女らしい。まず最初の攻撃がハンドバッグで引っぱたき。拳でいかずに物を使うあたりにリアリティがあります。パパに反撃されて泣きながら香水を噴射し、頭を殴られて気にするのはまず髪型。家事能力もそんじょそこらの娘以上のようで、女子力高すぎです。
2人がっぷり組んでバーの壁をぶっ壊し、通りに転がり出ていくあたりは息子編と同じフレーズがしばらく続くんですね。ところが息子編でbeer(ビール)だったところが、creame de menthe(クレーム・ド・マント)という、いかにも女性好みの綺麗なエメラルドグリーンのミントリキュールになってます。ゲイが、もとい芸が細かすぎる。
フロイトが云々のくだりは、エディプスコンプレックスの話でしょうか。男児の無意識の中に父親殺しの、女児の中には父親との近親相姦的願望があるという概念です。これが対決・和解を経ての、ラストの同居エピソードにつながっていくんでしょうかね。うーん、この辺は深いんだろうけど不快だわあ。
前出のWikipediaには、Sueという名前は、実在の弁護士スー・ヒックスからとられたと書かれています。スー・ヒックスは、進化論を教えた教師が逮捕されたスコープス裁判の検察側弁護士でした。彼は男性ですが、出産時に死亡した母親の名前をつけられたとのこと。それもなかなかしんどいエピソードですが、こちらのスーさんは裁判史上に名を残すほど出世されたわけで……「スーと名づけられると強くなる」説はやはり正しいのか?
とにかく、こんなものがあったのかという驚きがあったし、訳して面白かったけど、シルヴァスタイン氏の歌は一度聴けばもうお腹いっぱいです。これは知らなくても別に良かったかな。いや、むしろ知りたくなかった!これからジョニー・キャッシュのA Boy Named Sueを聴いて、口直しします。曲のイメージをぶっ壊されたとお怒りの方、申し訳ございません。酒でもかっくらって寝て、忘れてやってください。
前回更新の、ジョニー・キャッシュのA Boy Named Sueについては、こちらからどうぞ。


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